PERSON|株式会社イチーナ

商品部 中山 敦史

デザイナーとして、展示会や雑誌掲載など、会社が外部に向けて発信する際のビジュアルデザインを担当。仕事、会社への想いをインタビューしました。

新しいものへの挑戦とビジュアルのパワーで、地場産業の衰退を食い止める

PERSON|株式会社イチーナ

安くていいものが求められる世の中だけれど、作り手の想いや苦労を伝えたい

ーーイチーナに入られる前は、グラフィックデザイナーとして働かれていたそうですね。

中山:はい、元々は製造業とは全く畑違いのグラフィックデザイナーの事務所に所属していました。当時は、メーカーの中にいるデザイナーは自社の商品だけをやっていればいいし、毎月安定してお給料をもらえるのがうらやましいなと思っていました。でも、実際に中に入ってやってみると、商品の立ち上がりから量産までの流れをすべて見ながら、最終的にビジュアルに落とし込むのがすごく難しいと感じています。というのも、自分が中にいるからこそ、すごく時間も手もかけているし素材もいいことがよくわかってしまうんです。何万円、何十万円の値段をつけてもいいですよね、と思うほどに手がかかっています。でも、市場は安いものを求めていて、そんな時にどういうビジュアルで出せば生産の苦労が伝わるだろうか、その見せ方が本当に難しいと感じています。

ーーそんな時、最終的にはどうやって見せ方を決めていくのでしょうか。

中山:実際の売り場を見て決めます。イチーナの商品の横に中国製の安いものが並ぶとなった時には、残念ながら、イチーナのいい物をもっとより高価に見せて売ることはできません。安くていい物を求める消費者に合わせてビジュアルを落とし込むことになるんです。辛いんですけどね。でも、見せ方のデザインがうまくハマって商品が売れた時には嬉しいですね。特に、縫い子さんが頑張って縫ってくれたものが売れたとなると、縫い子さんの苦労が報われた、という思いが湧いてきます。

ーーお話を伺っていると、一緒に働いている同僚の方への思いをすごく感じます。

中山:グラフィックデザイナーをしていた時は一から十まで全部一人でやっていましたが、メーカーのプロダクトになると、いくつもの工程にたくさんの方が携わっていて、一人でも抜けると製品ができないのを実感しています。そして、その商品があるからこそ、僕は外に対して広報という仕事ができています。職人さんの有り難さはとても大きいです。もちろん職人さんは「この納期ではできません」などと譲らない部分も多く、ぶつかる時もありますが、「変な道を通ってものづくりをすると、後々失敗するよ」といつも助言してくれます。どんな些細な部分もないがしろにしない職人さんの声はすごく大事だな、と実感しています。

PERSON|株式会社イチーナ

今あるものを残しながら新しいものに変え、地場産業の衰退を食い止めたい

ーー新しいミッション「未来へ、創造力を紡ぎ育む」もできました。

中山:この未来へ創造力を紡ぎ育む、というミッションを、僕は地盤のクリエーションの力と解釈しました。というのも、今、地場産業が衰退しています。東かがわ市も限界集落と呼ばれて人口がどんどん減り、産業に携わる人が少なくなっています。実は手袋業界はとても特殊で、服飾や帽子のように作り方を学べる学校がありません。なので技術は職人から継承されていくしかないのですが、どうやったらこの衰退を食い止められるかと考えています。僕もこの地域で、手袋を作るミシンの音がいろいろなところから聞こえてくる中で育ちましたから、このまま衰退していくのはとても寂しいです。だからこそ、ミッションにあるように、今あるものを残しながら新しいものに変えていく、というのはまさに自分の考え方とマッチしているな、と思いました。

ーー入社されて5年ということですが、これからどんなことをやってみたいと考えていますか?

中山:イチーナは近年、ライフスタイルニットブランド「ThinKniT」という新ブランドが立ち上がり、同じ手袋でも違う切り口から魅せていくプロダクトを作り始めました。他社さんも同じように、手袋だけではなく鞄を作ってみたり、手術用のエプロンを売り出すなど、ニッチな商売も始められています。どれも縫製という技術を途絶えさせることなく、会社を存続していくための工夫です。イチーナも代表がとても頭が柔らかくて「とりあえずやってみよう」「チャレンジしてみなさい」という方なので、もう一つ何か新しいことをやってみたいと思っています。同時に、ここから力を入れていきたいと思っていることが、ビジュアルのパワーを生かしていくことです。今、イチーナがアップした商品画像なども、SNSを通じて一気に拡散していきます。これまでは私が自分で撮影した画像を使っていましたが、もっとクオリティの高いものに仕上げて、画像が一人歩きしてもいいようにしたいと考えています。アーティストの宣材写真のような画像を、ぜひ楽しみにしていてください。

Interviewer・Writer  平地紘子